この1日で、NHSってこんなにしてくれるの?という感想と、お金を出せると言ってもプライベートに紹介してくれないの?という感想とを、同時にもったことになる。このときはあまり実感していなかったが、あとから考えれば、それがイギリスの仕組みなのだ。
 まず、GPにかかって、専門医に紹介(リファー)されるのが基本である。口腔外科から補綴科、矯正科、審美外科と、専門医間の紹介もあるようだ。転院やセカンドオピニオンも、GPか今かかっている専門医に紹介してもらうのが基本のようだ。医師が病院所属でないため、NHSからプライベートへの勧誘が医師自らによって行われることも少なくないという(1)。なんでも、リファー、リファー、リファー。紹介がないと進まないのだ。

 それによって、医療情報が一元的に管理されているというメリットはある。ただ、今回経験した範囲では、紹介が医師個人の裁量によるところが大きいという印象が強い。突然思いつきで補綴科にリファーしようとした医師。取ってつけたように、矯正や審美外科の名を出した医師。そういう親切な医師にあたらなければ、もしくは必要最低限の医療だけを提供するつもりの医師にあたれば、リファーはされないままなのだろうか。
 もちろん、患者が知恵をつけて強く言ってみれば状況が変わるだろう。しかし、プライベートへのオプトアウトは否定された。知恵をつけるといっても限りがある。


 紹介によって、GPから専門医、専門医間の移動が保障されていく仕組みは、紹介があれば誰でも無料で標準的な治療が受けられるが、紹介がなければ先に進めない。紹介があっても、予約のタイムスパンは長い。日本のようなドクターショッピングはおよそ不可能だった。無料の公的制度と自費診療の治療費の差がより大きいイギリスにおいて、紹介で回っていくこの仕組みを使いこなすのは非常に難しいと思った(2)。
 ところで、この日に聞くべきことはもう1つあった。日本への紹介(リファー)だ。



(1)

5-8)7-7)参照。


(2)

 イギリスに長く住む日本人の間では、NHS派とプライベート派が断固として分かれるようです。保険料が払える人はプライベート。そうではなく永住覚悟のような人は、英語もできるわけですし、高額の日本の海外旅行保険をずっと払うわけにもいかないので、NHS派という人も多いようです。
 NHS派の言葉で印象深いのは、「最低限の治療はしてくれて、最後はホスピスまである。私はこちらで死ぬつもりだ」というものでした。私は、命に関わる病気になったとき、お金と気力があったらジタバタしたい派。そういう人には、ワン・ウェイのNHSの仕組みはつらい。けれども、天命を受け入れねばならないとき、たしかに誰でもNHSで死なせてくれる仕組みはありがたいなと、目から鱗が落ちました。