ようやく病室に入れた時点で夜9時を優に回っていた。けがをしたのが朝の10時半ごろ。長い1日だ。
 病室では、担当の看護師が挨拶してくれた。黒人の若い女性。とてもフレンドリーで優しかったが、前歯がものすごいすきっ歯なのが印象的だった。直後には、体温と血圧を測りに「アシスタントナース」と名乗る女性が来た。肌の色は茶系。アクセントからネイティブではないと思われた。


 その後、退院までの間にナースとアシスタントの組み合わせを4チーム経験したが、最後まで白人の看護師には会わなかった。そして、「ナース」はネイティブかそれに準ずるとおぼしき英語をしゃべるが、「アシスタントナース」はたいていかなりなまっていた(1)。1回だけアシスタントに男性がいたが、ほぼ女性だった。ナースのほうがアシスタントより若い印象があった。
 イーストロンドンという土地柄もあるのだろうが、医療スタッフの人種構成はあきらかに西のプライベート病院より多様だった。そして、職能階級的に下の方ほど多様性が増す印象だった。


 私は入り口のベッドに案内されたので奥をよく見る余裕がなかったが、病室にはおそらくあと3つベッドがあった。私の横に2つ、その一番奥と向かい合うようにもう1つ。私と隣のベッドの向かいは共用のトイレとシャワー室だった。
 プライベート病院だと素敵な病室とは聞いていたが、別に最低限清潔だし、意外と隣との距離もあるしで、NHSだからよくないとは言えないのだと思った。早く横になりたい気持ちと、病院の内部に来てしまった興奮が交錯していた。


 奥のベッドにインド系か中東系かというウェーブのかかった重たく艶やかな黒髪と厚い睫に覆われた黒目の美しいお嬢さんがいて、ムスリムのスカーフをしたお母さんがついていたが、とてもつらそうに喘ぎながらトイレに行っていたのが印象的だった。後で聞いたところ、盲腸をこじらせてけっこう大変なことになったそうだった。彼女は私の日本人的な黒髪とさっぱりした目がきれいだと思ったとのこと。互いにないものねだりである。
 カーテンが閉まっていたが、隣は白人女性のように見受けられた。患者層は多様だったが、大きな病院だけあって、地元の急患から予約手術入院の患者までいるのではないかと思った。



f4-2-1 病室間取り


(想像による病室図―奥をじっくりみて尺を推測して・・・などという余裕は、当然ありませんでした。)

(1)

 1-5)でも述べたように、イギリスは、医師・看護師不足で、英連邦諸国やEUからの受け入れを行ってきた経緯があります。後日、Royal College of Nursingの展示を見学したときは、NHS設立直後、カリブ海諸国等から看護師候補を移住させてトレーニングした歴史が語られていました。