11時を優に回ったころ、ようやく、回診が来た。ドラマ「白い巨塔」のように、教授を筆頭に白衣の軍団が来るのではないだろうとは思っていたが、意外に大きなグループが来た。日本でいうところの大学病院のような研究・養成機関だから当然なのかもしれない。ただ、誰も白衣は着ていなかった。「白くない巨塔」の回診だった。

 筆頭は、執刀医になる「コンサルタント」のミスターC。40代半ばくらいだろうか。医者の人数や風貌を観察して忘れないうちにフィールドノートをという状況ではなかったのではっきりしないが、それ以下、インド系風と白人の30前後くらいの若いイメージの医師2人に、前日顎を縫ってくれた黒人医師ほか数名がいたような気がする。人種・エスニシティにかかわらず、全員かなりわかりやすいブリティッシュイングリッシュを話し、見るからに頭がよさそうだった。ビジネスマンと違って、ぎらついていないさわやかな頭の良さだ(1)。
 日本の感覚からすると変に見えるのは、関係性はだいぶフラットで、一番トップのミスターCが立って診療している間に若い医師が足を組んで座ってしまったりすることだった。


 まず、若いインド系の医師が前日同様に私の口の状況を調べ、いくつか質問をし、次にC医師が同じことをした。
 ――ここの歯が痛い、ここはすでに神経がないから痛くないが欠けている、歯はかみ合っていない、口は開かない、顎は痛いが我慢できないほどではない。
 前日から何回同じ話をしているのだろうか、私は。

 白くない巨塔軍団は、しばらく互いに目配せをしたりうなずき合ったりこそこそ会話したりしていたが、やがてC医師が判断した。彼が私に告げたのは、手術は延期との決断だった。麻酔科医まで登場したのに、そう来たか…。

f4-7-1青い巨塔
(白くないけど巨塔、ロイヤル・ロンドン・ホスピタル)



(1)

 何人もの医師に会いましたが、皆さんさっぱりして頭がよさそうな、文武両道の学級委員といった印象の方でした。完全な憶測ですが、この外科医師のハビトゥスは、ちょっと日本と違う気がしました。
 なお、NHSの医師の収入はずば抜けて高いというわけではないようです。NHSHealth Education EnglandのページPay for doctors:Find out about the different doctor pay grades in 2016(2016年6月20日閲覧)によれば、以下。
・Specialty doctors          £37,547 to £70,018
・Consultants              £76,001 to £102,465
・General practitioners (salaried)  £55,965 to £84,543
 大衆紙の記事によれば、平均でパイロットや国会議員と同じくらい?(Where do you rank in the official earnings list? Figures reveal huge pay gap between rich and poor(2016年6月20日閲覧)
 ただ、もちろんプライベートとかけ持ちしていた場合は、この限りではありません。