やだっバス!……あ、行っちゃう……どうしよ…信号?…止められる??…………あっ!!!ゴッ。
2015年11月下旬の木曜日、40年弱の人生最大の魔が差した。
とある報告に向かう朝、家のすぐ近くの長距離バス乗り場で水たまりに足を滑らせたのだ。
雨がパラパラ降り始めた中、私がバス停にたどり着くより前に、目的のバスが向かって走ってきた。その日は運悪く、他にバス停に人がおらず、バスは私に気づく前に乗客なしと判断してバス停を飛ばしてしまった(1)。
15分に1本のバスに何をそんなにあせったのか、なぜどう考えても成功率の低い賭けに出たのか、後から考えると謎としか言いようがない。私を通り過ぎて信号でとまったバスを見て、考えるより先に通り越したバスを追いかけて踵を返した。
そこから何歩走ったのか、どのくらいで走ったのか、どういうスピードで走るとああなるのかわからない。歩道の端の落ち葉の乗った浅い水たまりが目に飛び込んできて、「あ!」と思った瞬間、私は滑った。
ロンドン在住中、めったに着なかったタイトスカートのスーツを着て、めったに履かなかった滑り止めなどついていないハイヒールを履いていた。発表関係の荷物でカバンは死ぬほど重かった。
後から位置関係で考えれば、おそらく、ものの見事につるっと、体の真ん中の方を軸にして――いやもしかするとむしろカバンが振り子のように勢いをつけて――足が上に顔が前に回転したのであろう。顔から落っこちた。
たしか手はついたが、勢いが優った。常々出ていることを気にしていた下顎の先が、「ゴッ」という音を立てて地面にぶつかった。そこだけが、すべての力を受け止めた。
(事故の様子…手書きですみません。)
(1)
ロンドンのバスは、バス停に立ったうえで、手をあげて止めます。同じバス停に色々な路線のバスが止まることもあり、ただバス停にいてもバスは止まってくれません。私は向かってくるバスに手を振ったのですが、その日は運悪く、ダブルデッカーバスが重なっていて、運転手はバス停の向こう側は見ていませんでした。(探したら、なんと事故現場の写真1枚もなし。撮ったつもりでいたのに・・・(笑)。
写真はロンドン交通博物館より。2階建ての向こうから死角に入ること、ご理解いただけますでしょうか。)