結局、路上で1時間待つならば自分でタクシーを呼んだほうが早いし、意識もあるのに救急車に乗るのも悪い気もしたので、救急車は断ることにした。
 何より、様子のわからない現地の病院に運ばれるより、自宅から保険証書をとってきて日系病院に行ったほうが安心なのではないかと思えた。さすがの私も救急車体験♪とはなれなかった。(というか日本で乗ったことがないので、乗っても比較もできない。)


 ただ、ではすぐ日系病院に向かえたかというとそうでもなかった。すぐ目の前の自宅に戻るのに、警察官が持ち場を離れるために交代要員を呼ぶのを待たされたり(こういう融通の利かなさはイギリスではよくあることだ)、自宅で鍵を部屋に置いたまま自分を締め出してしまったり、と色々あってどんどん時間がたっていった。
 さらに、なんとか海外旅行保険の保険証書を手にして、渡英直後に一度、高熱で受診したことがある日系病院に電話をすると予想外の展開が待っていた。


 ロンドンには、保険会社の手引きに、日本人医師がいてキャッシュレスサービスが利用できると書いてある病院だけで数軒ある。日系病院にこだわったのは、単に「本当に大変なときは日系医療機関へ行けばいい」というイメージがあったからだった。
 イギリスは公的医療制度(NHS)は無料だが、お金が出せる人はプライベート医療機関にかかるというイメージがあった。(必ずしもそうでもないと後で思い知るのだが。)だから、ロンドンで日系病院が近くにあり、海外旅行保険が使える自分は、あまりわかっていないイギリスの医療制度に乗るよりは、プライベート医療機関の1つである日系医療機関にかかるのが言葉の問題もなく安心だろうという程度の考えだった。
 ところが、受付の女性は、やや困ったように、「当院は予約診療のみなので救急は対応できません」と伝えてきた(1) 。あのまま救急車を待って、イギリスの救急制度に乗って流されていたほうがよかったのだろうか…。


 絶句していると、受付の女性が助け舟で出してくれた。その病院は英系私立病院の一部に間借りしているような形になっているのだが、その英系私立病院のほうには命に別状がない程度の救急患者向けの外来があり、そこで日本語通訳者を頼んで受診できるかもしれないということだった。
 英系私立病院ではキャッシュレスサービスは使えないというが、立て替えるのは問題ない。何より、通訳者が予約できるか確認して話を通しておいてくれるということで、それならば日系病院にかかるのと大きく変わらないと判断し、お願いすることにした。

f1-3-1 救急車

(来てくれなかった救急車・・・。)
 

(1)

 外務省の英国医療情報のページ(在外公館医務官情報 英国(2015年4月1日)、2016年5月20日閲覧)にも、「プライベート医療機関の多くは、時間外診療や救急治療を行っていません。しかし、旅行者や短期滞在者であっても、救急医療については無料でNHSの医療機関で治療を受けることができます」と書いてありました。NHSとは、イギリスの公的医療制度。それ以外がプライベート。われらが日系病院とは、とどのつまりはイギリスの公的な制度の外部でプライベートにお金を徴収しながら診療をしている機関ということになります。
 日系病院=日本語で受診できる頼りになる場所だと、今まで海外旅行の旅に保険のガイドブックを握りしめていましたが、結局、救急対応をあまりしてくれないとは…。あとで調べれば24時間救急受診を受け付けている日本語対応病院もありましたが、自宅からタクシーで行くには遠かったです。