そこからが、大変だった。では外科へという話にはならず、「顔だからスペシャリストに見てもらうべきだと私は判断するけれど、今日、うちの病院にそのけがのスペシャリストはいないから、厳しいかもしれないけど探してくるね」と医師が部屋を出て行ってしまったのだ。
 その間、通訳さんが説明してくれたところによると、イギリスでは医師は病院所属ではなく、曜日で病院を回っているとのこと。おそらく、顎の専門の医師に電話をかけて探しているのではないかということだった。
 待たされること10分以上。だいぶ具合も悪くなってきているところ、つらかった。


 突然明るい声が聞こえ、何か話がまとまった気配がしたと思ったら、女性医師が戻ってきた。
 「やっぱり来てくれる専門医がいないので、これから専門チームがいるこの病院に行ってください。」
 ・・・・・・まさかの、再移動。
 しかも、救急車で運んでくれるわけでもなく、自力で移動せよとのことだった。病院がキャブ呼んでくれることになった(1)。
 医師が急いで紹介状を書いてくれた。Royal London HospitalのMaxillofacial Clinic。それが、私が行けと言われた場所だった。マキシロフェイシャルという聞きなれない英語は、Maxillo=顎、Facial=顔ということで、顎顔面科。日本でいうところの口腔外科だった(2)。
 医師は、紹介状とレントゲンのCD-Rをすぐ用意してくれ(さすがプライベート)、握手でグッドラックと言って送り出してくれた。


 なお、キャブを待つ間、通訳さんに移動後の通訳について相談すると、自分は病院付きなので一緒に行けないが、保険で通約派遣ができるのではないかという知恵を授けてくれた。結局キャッシュレスの日系病院にかかったわけではないので、時間をかけて保険証書をとりに戻ったのは無駄だったかと思ったが、ここで役に立った。友人に電話してもらい、目的の病院へと通訳の派遣を手配してもらえることになった。
 通訳さんにお礼を言って別れたが、キャブはなかなか来ない。

 よく骨折をした人から聞くような「息もできないような激痛」などではなく、病院の患者層について知的好奇心で会話ができるくらいだった。しかし、どこかわからないが鈍く痛く、何かとても具合が悪いといった感じだった。やや気持ち悪かったし、やたら水が飲みたかったので、ホメオスタシスがおかしかったのだと思う。
 この時点でたぶん受傷から3時間半くらいたっていたと思われる。ここまでで、長い1日の半分も終わっていなかった。
 

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(嫌なロンドン土産)

(1)

 イギリスでは、流しのタクシー(いわゆるブラックキャブ)に比べて、予約制のキャブを呼ぶとだいぶ安いです。半分くらいの値段ではないかと思います。ただ、自宅からプライベート病院の移動の際は、管理人さんがキャブに電話してくれたのですが、すぐには難しいということで流しを拾いました。ネットで予約もできるので、事前に予定がわかっている場合は呼びましょう。

(2)

 Oral and Maxillofacial Surgery=口腔顎顔面外科が、いわゆる口腔外科の正式名称らしいです。そんなの知らなかったし、日本語のわかるイギリス人の友人は、そんな単語しらないし、漢字で「顎」「顔面」のほうがわかると言っていました。西洋におけるラテン語の素養vsアジアにおける漢字の素養という話のようです。ちなみに。Maxfacと略されるらしく、そうなるともう化粧品ブランドしか浮かびません。

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(帰国後、日本の大学病院で、確かに口腔外科がそんな英語であることを確認することに)