日本の医療は、原則としてフリーアクセスである。国民健康保険制度が定める自己負担(現在は通常3割)を支払えば、自分で医療機関を選択して医療を受けることができる。患者がいきなり大病院に行ってしまって医療が滞ることを避けるために、ゲートキーパーとなる「かかりつけ医」の制度をとりいれようという議論はあるが、なかなか進まない。それに対して、イングランドはプライマリケアとセカンダリーケアを厳密に分ける、このかかりつけ医制度を採用している。
 住民は、まず近所のGP(General Practitioner、一般医)に登録する(「かかりつけ医」に相当)。体調不良の折にはこのGPの診療所(surgery、外科ではない。こういうイギリス英語には一通り戸惑う)を受診することになっている。ごく簡単な検査や処置ならばGPで終わる。そこでより専門的な検査や治療が必要と判断されて初めて、二次医療機関であるところの専門医・病院(Hospital)に紹介されることになる。

 このしくみは、いきなり専門分化した「○○科」に係るのに慣れている日本人にはけっこうつらい。たとえば、あきらかに中耳炎だと思っても、直接耳鼻科にかかることはできない。
 おそろしいことに、まずはGPを予約しないといけない。これが数日待ちだったりするらしい。改革によりウォークインという当日先着順のしくみができたが、いずれにしてもプライマリー医療機関にまず行かねばならない。そして、たいてい「様子を見ましょう」とか「この抗生物質を1週間飲んでも治らなければまた来てください」と言われて帰される。1週間後に「やっぱり治りません」と言ってようやく耳鼻科専門医への紹介状が書かれるということになる。
 すぐに病院に駆け込んで「あー中耳炎ですねー」と診断されて薬をもらって安心したい日本人は、「様子見」というステース自体におそろしく不安を覚える癖があるようだった。私も含めて。
 そんなわけで、GPはゲートキーパーではなく、ゲートオープナーだという記述もあった(1)。GPが専門医に向けてのゲートを開けてくれないと、何も始まらないのだった。

f2-3-1

(私が登録したGPの診療所)


(1)

松本勝明編著2015『医療制度改革 ドイツ・フランス・イギリスの比較分析と日本への示唆』旬報社、p.196。