エスニックな道を抜けている間にさらに気持ち悪くなり、おもしろいが早く着いてくれと思った頃、キャブは大きな道に出た。そして、すぐ目についたのが、おんぼろのRoyal London Hospitalという建物。
 キャブの運転手に聞くと、「あれは古い建物。大丈夫、新しい方の入り口に連れて行くから」とのこと。なんだかわからないが、由緒正しいところに連れて来られたようだった。

 言葉通り、新しい建物の横にキャブが止まったので、支払いを済ませて中に向かった。病院の中に入った瞬間、北のプライベート病院と患者層が違うことは一目瞭然だった。ほとんどが有色人種。ムスリムと一目でわかるスカーフをつけた女性も多かった。病院のため、顔色の悪い人や楽な服装をした人が多いであろうことを差し引いても、着ている服の質から豊かな層ではないことはすぐわかった。
 
 あとで調べれば、ロイヤル・ロンドン・ホスピタルとは、そもそもそういう場所だった。Royalがついたのは1990年と最近で、それまではThe London Hospitalと言ったそうだ。The London Infirmary(ロンドン診療所)として1740年に有志によって建てられた、イーストロンドン初の貧困層のための無料の病院がその起源である。それ以前に、St Barts、Guy's、St Thomas'、Westminster、St George'sの5つのボランティア病院があったが、東側にはなかったそうだ。
 Wikipediaを見てみると、切り裂きジャックの被害者が運ばれたのがこことか、あのエレファントマンがいたのもこことか、書いてある。 新しい建物の方には、ドクターヘリのヘリポートがあり、2010年以降、ロンドンに4つあるMajor Trauma Centre(重度外傷センター)の1つに指定されているらしい(1)。
 どうやら、いきなりロンドンという都市とイングランドの医療の歴史を背負ったところに来てしまったのだった(2)。



f3-2-1 Royal London Hospital
(最初に見えた建物。実際には裏側にある新しい建物で診療が行われていて、キャブが裏に回ってくれました。)

(1)

 Major Trauma Services, Urgent and emergency care services in England (NHS Choices)(2016年5月30日閲覧) 。

(2)

 ちなみにロイヤル・ロンドン博物館(2016年5月30日閲覧)という病院の博物館があり、エレファントマンの骨格標本の複製などが置いてあります。後日、ブリック・レーンとともに行きました。