プライベート病院では、専門医と連絡がついているので、すぐ受け入れてもらえると言われていた。しかし、受付に行くと待つように言われ、問診票を渡された。ロンドン横断で気持ち悪さが最高潮に達している中、これはけっこう堪えた。
 しかし、私もイギリス標準にだいぶ慣れていた。レストランから役所まで、窓口の人によってその後の展開が違うことは多々あるので、まずキーパーソンを探す。それで劇的に動くこともある。でも同時に、何をどうやってもどうにもならないときもある。そのときは、期待水準を低く持って粛々と待つ。それが、私が体で覚えたイギリス社会の泳ぎ方だ。
 そこでとりあえず、窓口のうちの責任がありそうな男性のほうに、問診票を提出しながら、「レターの中を読んでくれ、この人に話がついていると書いてある。これ以上もう待てない」と強く主張してみた。それでも待つように言われたが、結局腰をかけてすぐ呼ばれた。主張したからかどうかはわからない。


 まずいくつか並んでいるらしき診察室の一つに呼ばれた。すると、黒人の女性医師がいて、「どうしました?」というので、「なぜまたそこから…」と思いつつ、プライベート病院から口腔外科に紹介されたと返答した。レターを一読して医師がこれは自分ではないからあちらの待合室で待てという。どうやら、出迎えるべき部署の人ではなかったらしい。
 ――しっかり中を読んでから回して…。
 病院に限らず、自分の担当でないと思うと適当に人に回していって誰も責任持って目的地へと案内しないというのは、イギリス生活ではデフォルトだった。一歩歩くたびに激痛とかでなったのでよかったけれども…。


 またあの待合室に差し戻されるのかと思いきや、病棟内部の待合室に行かされた。そこで、しばらく待たされただろうか。その間、通訳との連絡を心配した友人が携帯の電波を求めて一度外に出て、偶然通訳さんと出会って戻ってきた。
 診察に向けて、聞き違いもなくなるだろうし、質問も日本語でできる。何より、語学力に心配はないとはいえ、負担をかけている友人の手前、通訳さんが来てくださったのはありがたかった。
 通訳さんが来てしばらくして、もう1度呼ばれた。今度は、口腔外科に呼ばれたようだ。


f3-3-1 紹介状_ページ_1

(紹介状―ぼかします)
※受傷経緯とけがの度合い、バイタル関係。そして、Many thanks for seeing the patient urgently. I spoke with Mrs S (maxillofacial on the beep) and she is aware that the patient is coming.と書いてあります。