このときに聞いたのか、もっと後で聞いたのか記憶が定かではないが、通訳さんは最初、一般外来に行ってしまったらしい。キャブに連れて来られたのでわかっていなかったが、私たちが入った入り口は、A&E専用の入り口だったのだ。
 「A&E」とは、Accident and Emergency。事故救急外来のことらしい。
 救急と言えば、アメリカドラマの影響で「ER」かと思っていたら、イギリスでは違うらしい。恐ろしいことに、けがをしなければ、1年過ごしてもそんなことも知らずに帰った気がする。(知らずに帰れるに越したことはなかったかもしれないが。)


 いずれにしても、ということは、救急外来なのにあんなに人が待っていたのだ。待合室には、何十人か座れるくらいイスがあったと思う。そして、座れる場所を探すくらいには人が座っていたと思う。私はすぐ呼んでもらえたが、あの人たちが全員すぐ呼ばれたとは思えない。「救急」とは一体何なのか。
 そもそも英語としては、emergentは命に危険のある切迫した状態を指す。そうでない緊急は、urgentだ。(昔、emergentというメールを出してしまったことがある。赤面。)待たされた人に命が切迫した人はいなかったろうが、では逆にではなぜそんなに人が待っているのか。だいたい平日午後だ。


 NHSのホームページを見れば、A&Eは命に危険のある人、つまり心臓発作やアレルギー発作、事故で意識がないといった状況の人が行くところと書いてある。対して、骨折は軽傷ユニット(Minor Injury Unit)やウォークインに行けとある(1)。
 しかし、後から誰に聞いても、事故で血が滴って骨折か脱臼かという状態だったならばA&Eだという。同時期に捻挫したという友人も、A&Eに行けと言われて行ったと言っていた。
 長く住んでいる人ほど制度の解説書など読まない。日本でもどの程度で救急車を呼ぶべきという議論があるが、イギリスでは、予約しないと病院にかかれない、専門医を直接訪問できないというしくみのなかで、制度が前提とするより軽傷の人がA&Eに直接かかるのが当然になっているのではないかと思っている(2)。


f3-4-1 A&E
(ロイヤル・ロンドン・ホスピタルのA&E入り口)

(1)

 A&E Department, Urgent and emergency care services in England (NHS Choices)(2016年5月30日閲覧)。


(2)

 現在、政府基準として、A&E到着から入院・転院・退院まで最高4時間以内とすることとされています(Department of Health 2013 The Handbook to the NHS Constitution for England, p.30、2016年5月30日閲覧リンク切れ)。
 4時間!?本当に死に瀕しているときは、急いでくれるんですよねえ?

 なお、この文書は、先述の救急車到着目標が書かれているものです。同じ個所に、「がんと診断されてから最初の治療まで1月以内」「がん疑いで紹介されてから最初の治療まで2か月以内」「当初がんが疑われなくとも、胸の症状で専門医に紹介されてからの待機時間は2週間以内」「検査の紹介を受けてからの待機時間は6週間以内」等々と書かれています(pp.29-30)。これは達成目標です。
 正直なところ、あとから調べて怖くなっています。日本は、検査とかはもっともっと早くやってくれますよねえ?

[2016年7月29日追記]
 上記リンクは見られなくなっています。最新の2015年版の
The Handobook to the NHS Constitution for England(pp.33-34、2016年7月29日閲覧)でも同じことが書いてあります。