すべての診療を終え、病棟があくまで「ちょっと」待つように言われ、先ほどの病棟内の待合室に戻されることになった。
 病室を出る前に男性医師に聞いた。
 「紹介状にはミセス Sとあるけれど、その人はどこにいるのか?」
 「君の後ろにいる人だよ。」
 若い女性医師が、ミセス Sだった。結婚しているという事実はさておき、ミセス??
 そういえば、先ほどから手術の決定権を持つ人はミスターと呼ばれている。なぜこの人たちは医者なのに、ドクターではないのか???謎が深まった。


 その時点で午後5時か6時くらい。けがをしたのが午前10時半。長い一日だと思ったが、そこから、実際に病棟に入るのが夜9時すぎになると誰が想像しただろうか。
 痛み止めと抗生物質を飲まされたあとは、ほぼ無視。横になる場所などのない、狭い部屋でひたすら待った。ホメオスタシスがおかしいらしく、水を飲みに行ってはトイレに行った。
 夜遅くまで付き合ってくださって、色々と話して気を紛らわせてくれた友人と通訳さんに感謝している。
 通訳さんが何度か聞きに行ってくれたが、そのたびに「忘れていない。待っていろ」とのことだった。


 途中、飲み物を乗せたカートがやってきた。
 「何かご入り用ですか?」
 ハリーポッターのホグワーツ特急で売り子が来た状況にそっくりだった。違うのは、無料だということだ。
 味のついたものを口に入れたくない状況で飲みたくもなく、手厚くするところがおかしい気がしてならなかったが、空腹で付き合ってくれている友人と通訳さんに飲んでいただけて、ちょっと気が楽になった。


 相変わらず脳天をつくような激痛ではないが、どこだかはっきりしないが顎全体が鈍く痛く、とにかく体がしんどかった。人生で経験したことのない痛みなどではなく、高校時代、生理痛でぎりぎり授業は受けようと思えば受けられると授業に出ている感じに近かった。つまり、授業を受けられないレベルよりも軽く、何度も経験した程度の痛みだった。それと違うのは何時間やりすごせば授業が終わる/痛みが去るという見通しがないことだった。
 同じ部屋に、本当にしんどそうなインド系か中東系かという若い男性が座っていた。途中で友人男子が二人、食べ物を買って帰ってきたが、食べられないと断っていた。見た感じでは、腕を骨折したのではないかと思った。彼は、たぶん脳天をつくような痛みだったのだろう。
 私、そこまで痛くなくてごめん、と思った。でも、早く横になりたかった。

f3-2-2 Royal London Hospital
(古いほうの建物は老朽化で使われておらず、実際に入院することになったのは、うしろです。後ろの左手側にA&E入り口があります。ヘリポートがついているくらい大病院だということです。)