夜10時を過ぎたのに、病室はまだ明るい。周囲の治安もわからないところに女性をこれ以上拘束するわけにはいかないので、友人と通訳さんには帰ってもらうことにした。
 翌日は順調にいけば、朝「コンサルタント」で「ミスター」の回診があり、そのまま行けば手術である。友人は、手術中に誰もいないのはまずいと翌日も来てくれることになり、幸いなことに通訳さんは同じ方が翌朝も来てくださるとのことだった。その手配がついたことにほっとしつつ、おふたりを送り出した。

 日本の病院は9時ごろには消灯というイメージがあったが、ロイヤル・ロンドン・ホスピタルの病棟はまだ明るい。長い一日が終わって疲れ切っていたので、一瞬うとうとした。そのあと、痛み止めが切れたのか、けっこうつらい時間が訪れた。6時に飲んだから0時まで待てと言われて、しばらく耐えた。睡眠薬はもらえないのかと聞いたが、処方がないと難しいとのことだった。
 0時をすぎると病棟とすぐ外のナースステーションの明かりが消えたが、人の声は聞こえた。こういうところもイギリスはルーズだなあと思った。

 痛いのかだるいのかわからない状態で、もぞもぞしていたが、私は図太いのか疲れが優ったのか、何度か起きたりしながらも、結局睡眠薬もなくけっこう眠った。
 ――日本でもしたことのない入院を、ここで体験することになるとはなあ。
 目が覚めてしまったときは、病院専用のWi-Fiが来ていたので、登録してスマホで病院について調べたりして気を紛らわせることができた(1)。(なお、ついでにゼミ選考のメールの返信をしたのであった。えらい私。)


(1)

 このときのWi-Fiの名前がBarts。バーツって何?と思っていました。後でわかったことは、St. Bartholomew病院と合併して、BartsというNHSトラストが運営しているとのことでした。国営からトラスト制度になったのはなぜ?とかそういう話は先行研究をどうぞ。
 ミーハーな私の関心は、バーツと言えば、ホームズとワトソンが出会ったところ!ということ。今ではシャーロックとジョンが出会ったところです。こちらは11世紀に設立された、英国最古の病院とのこと。バーツが閉鎖になりそうになったり、ロンドン病院と合併したりしたあたりは色々ドラマがあるようでした。



f4-4-1バーツf4-4-2Holmes meets Watson
(バーツの博物館には『緋色の研究』のワンシーンの説明が、BBCのSharlockでもきちんとこのバーツが写っています。)