何度目かの目覚めから再び眠りに落ちていたとき、カーテンが開いて、朝6時の検温と薬が来た。そして、にわかにまわりが騒がしく明るくなった。消灯は遅いのに、起床はふつうに早いのか…。夜型の私には、ゴールデンタイムを奪われた感が強かった。
驚いたことに、39度近い熱があった。骨折部位の真横とも言える耳で測るせいもあると思うが、それなりに熱は出ていたのだろう。
アシスタントナースが、事故を防ぐためにNil by Mouth(絶食)という札をベッド上にかけて行き、水も飲めないのでと点滴をつけて行った(1)。その後、夜勤の看護師から昼の看護師への引き継ぎが行われた。12時間交替なのだろうか(2)。
もう少し寝るかと思うと、今度は白衣を着て美しい金髪を覆った、いかにもこれから手術をする医師ですという感じの白人男性が来た。この人が、コンサルタントか?と思ったが、それにしては時間が早すぎる。
「英語はわかるか」と聞くので、「医療専門用語はわからないが、ふつうの話はわかる」と答えた。通訳さんはまだ来ていない。仕方ない、海外生活は日々英会話レッスンだ。
「私はアネ*※×●※です」と言う。状況的に麻酔科医だとは思ったが、「ア、アネ??」と聞き返す。恥ずかしながら、前日から頻出しているanesthetic(正確にはイギリス英語なので、anaestheticとスペルが違う)がどうしても覚えられない。
「僕は、あなたを、眠らせます」と、彼は「おねんね」のジェスチャー付きでゆっくり話してくれた。そこはゆっくりでなくても、そのくらいわかります…。
彼は麻酔をした経験があるかとか、既往症や薬や食べ物のアレルギーについての一般的な問診をした。覚えていない頃ヘルニアの手術をしたことがあるというと、「ローカルだったか?」と聞くので、そこで初めて「部分麻酔」が「ローカル・アネなんとか」であることを知った。覚えていないけれどたぶん全身麻酔だったはずと言いたかったが、「ローカル」の反対語が思いつかない。「ホール・ボディ?」と聞いてみると、「ジェネラル?」と聞きなおされた。前日から、医療方面の語彙が増強されている。
麻酔科医は、全身麻酔になるので、手術室に入ったら麻酔を入れて、次には手術室の外で目覚めることになると説明してくれた。麻酔はどうやってするのかと聞いたら、右腕にぶら下がった注射の先から入れるという。背中などではないので、ちょっと安心した。
異国で全身麻酔は怖いが、腹をくくるしかないし、不思議と現実感がなかった。
(1)