9時になると、友人と通訳さんがやってきた。昨晩遅かったのに申し訳ない。
 朝10時以降、執刀医になる人の回診があり、手術確定かどうかの最終判断が下されるとのことだったが、10時以降、正確にいつ来るかはわからないとのことだった。案の定、待てど暮らせど来なかった。


 代わりに来たのは、会計係の女性である。女性は、オーバーシー・デパートメントの者だと名乗った。さすが、大病院には海外出身者専用の部署が存在するのだ。たしかに、NHSのしくみの中で、無料で済む患者と自費診療になる患者の違いは大きい。立地的にも不法滞在者の払い逃げのような事態は避けねばならないだろう。
 私は、ビザを持っていてNHS登録もしているというと、資格確認のためにパスポートと在外研究を証明する書類のコピーを出すように言われたので、その場でスマホからメールした。後で考えてみれば、データベースで管理しているのだから住所と名前でいいような気がした。その後何も言ってこなかったが、退院書類にはNHS登録番号が書いてあったので、人物が特定できたのだろう。
 海外旅行保険で何とかなるとわかっていても、NHSに登録していたおかげで堂々と無料の医療を受けられるというのは、なんとなく安心感があった(1)(2)。


 それにしても執刀医は来ず、代わりに色々な人が出たり入ったり。熱があるというのに、落ち着かない。友人と驚きを共有したり、通訳さんにNHS情報などを聞いたりして気を紛らわせながら、ひたすら待った。


f4-6-1 20世紀の手術
(写真のネタが切れたので、科学博物館の医学史コーナージオラマより20世紀後半の手術の図)

(1)

 後で色々な人に聞いたところ、実際にGP登録しているかどうかは、NHSの資格とは別のようでした。緊急入院したというケースでも、ビザの資格がきちんとあればNHSのスキームの中で治療してもらえるようです。ビザ取得時点でNHS登録料を払うようになったので、それはもっと明確になったのではないかと推測しています。

(2)

 なお、通訳派遣のために日本の保険会社に先に連絡してあったので、保険会社が先回りして、「キャッシュレスになるように交渉します」と連絡をくれていました。今回の場合、NHSの正規登録者として入院も手術も無料だと思っていたのでそう伝えましたが、保険会社が連絡したために会計係が動いたのかもしれません。
 私は、キャッシュレス対応医療機関以外では、ともかく立て替えてから保険会社に請求するものだと思っていましたが、事前に連絡しておくと、保険会社から直接払って事実上キャッシュレスになるような交渉までしてくれると、初めて知りました。例えばアメリカで救急車で運ばれて手術して入院したら庶民には立て替えられない額になるはずなので、これはありがたいと思います。