ミスターCが言うには、ミセスSが彼に委ねた関節の骨折についての診断は、手術の必要なしの見込みとのことだった。骨折部位が上で関節部分のため、手術をしても完璧に治らない上に、手術をするほうが神経を傷つけたり関節が動かなくなったりするリスクがあるので、保存療法が標準治療とのことだった。
 問題となったのは、そちらではなく、ミセスSに手術はほぼ確定と言われた顎先だった。私自身、話せているのにそんなに手術が必要なのかと思っていたが、彼らもそう思ったようで何度もそこを触診していた。どうも、下顎が折れたところでずれてしまうほど割れていれば手術、それほどでもなければ自然治癒待ちということらしかった。
 話をややこしくしたのは、私が、まさにその部位の上にあたる下の前歯6本の裏に矯正治療後の保定のワイヤーをしていたということだった。事故の衝撃でそのワイヤーの一部がゆがんで外れていたのだが、外れたところの下の骨がパカッと割れているとのこと。それで、かなり下まで割れているのにワイヤーが止めてくれているのか、そもそも上のほうだけで下のほうは割れていないのかが、触診や正面のみのレントゲンだけでは判断しかねるので、CTスキャンを撮ってから再判断したいという話だった。


 そう。考えてみれば、CTも撮っていなかったのだ。プライベートの単純なレントゲンからパノラマレントゲンに進化したものの、未だどこがどう折れたのかよくわからなかったが、まだCTという手があったのだ(1)。
 まずCTスキャンを撮ってもらうが、今日の予約は15時が最短。ただし、救急病院だから緊急の事例が入ったら後ろに延びる。そこから画像を見て決断したとして、必要な場合、今日手術ができるかどうかはわからない。ならば、あらかじめ今日は手術はなしにして、必要となったら明日しよう。食べないと体力も落ちてしまうので、食事しなさい――。
 最終決定は明日朝になるだろう。手術がキャンセルになったらそのまま退院だ。手術をしても・・・やはり明日の夕方には退院だ――。
 それが、待ちに待った白くない巨塔の診断だった(2)。
 前日からはっきりしない状況のまま待たされ続けて、さらに3時間以上も待つことになった。ただ、この時点で私は、手術の可能性はとても低くなったのではないかと思っていた。だって、顎先がずれそうな不安定な感じは一切ないのだ。


(1)

 プライベート病院にはろくなレントゲンがなく、大病院でもすぐにCTは撮ってくれない!何たることでしょう。レントゲン問題は折に触れて出てきますが、この状況の背後には、CT保有台数の問題があるようです。よく知られているように日本は、CT多すぎです。そして、これも後でまた触れますが、レントゲン、撮りすぎです。でも、イギリスは少なすぎです。
 というか、ここまでの経緯でわかるように、とりあえず診断のためにCTを撮るとか、頭部外傷がないかMRIを撮るといったことがないようです。そのあたりから、通訳さんに「痛くなさそうにしているから後回しにされる」と何回か言われました。イギリスという国で「イタイイタイ」と騒いでも順番が先になる気がせず、実際高熱は出ていたもののすごく痛いわけでもないので、だるだるしながら待つことにしましたが、頭を打ったら打ったと全力で訴えないと、危ないのではないでしょうか。


図 人口百万人あたりのCTスキャン保有台数(抜粋)

f4-8-1CT台数
※上記URL情報の中から、データがそろっている2011年のみ抜粋した。



(2)

 「手術してもその日に退院なんだ・・・」ということは思いました。でも、4-1)に書いたようにNHS病院だし、そんなものだろうなと思いました。

図 OECD各国の急性期病棟の平均入院日数Oecd-hospitalstay_svg

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Oecd-hospitalstay.svg#/media/File:Oecd-hospitalstay.svg