施術が終わると、ひとまず病棟にいったん戻された。すでに日は落ち、土曜ということもあり、ナースステーションには人がいなかった。
 ラクロス部キャプテンのような先生は、ささっと退院書類(Discharge Summary)を書き、痛みどめと抗生物質、マウスウォッシュを手渡してくれた。あたりまえだが、会計はなかった。閑散としたナースステーションで、若い先生からわわわわーっとものを渡されて終わる。それが私の物心ついて初入院体験の終わり方だった。

 ところで、退院の書類は、落ち着いたらなるべく早くGPに出すようにとのことだった。
 ――え・・・。
 さらに、どうせ抜糸のタイミングが、プロフェッサーの診断の後、木金くらいが適切なので、抜歯してもらいにGPに行けと言われた。
 ――なんと・・・。

 どうも、GPの役割が、それまで私が漠然と思っていたよりも重いのだった。セカンダリーな医療機関に紹介されても、そこで何をされたかは最後はGPに集積されるべきなのだ。私のかかりつけ医はGPであり、口腔外科というプロフェッショナル集団は、あくまでも必要な専門ケアを提供しているだけということのようなのだ。そして、抜糸などということのためには、専門医は必要ない。GPの予約をとるかウォークインかでとってもらうというのだ。
 前述のように、私はGP登録の際にGPに会っていない。そんな人が私の健康を握っているのか。なんか不思議な気がした(1)。


f5-8-1Discharge Summary

(退院書類。受傷経緯と治療内容、投薬情報が書かれていました。なお、これが通訳費用等の海外旅行保険請求の時の診断書代わりになりました。)



(1)

 猪飼周平2010『病院の世紀の理論』有斐閣では、プライマリケアかセカンダリーケアか、診療所か病院かの4象限で「診療構造」を図示しています(p.19、下図)。それによれば、イギリスは対角線の一方が存在しない、完全分業制です。そして、GPから専門医に送られた患者は、かならず一般医に差し戻される仕組みになっています。


f5-8-2 イギリスの診療構造