――留まるべきか、留まらざるべきか、それが問題だ。
 ひとまず2泊3日の入院を終えて退院し、通院治療を言い渡されたが、何度も脳裏をよぎることになるのは、当然のことながら、日本に帰ったほうがいいのではないかということだった。
 大きなけがをしてもなお、私は人生で初めての(そして最後かもしれない)海外長期滞在を切り上げて帰りたくはなかった。まだまだ見たいものがある。飛行機を予約して12時間かけて帰るのも、それに伴う事務手続き等も面倒だ。だいたい帰っても、治療以外の時間は自宅で一人で(または実家で!)で休んでいるならば、手足が動くのだから見たいものを見て帰りたい。その気持ちは強かった。

 同時に、イギリスの医療を信頼していいのかという不安は、繰り返し繰り返し沸き起こってきた。もちろん、日本もイギリスも先進国であり、日本のほうが優れている保障もない。だが、半日以上手持ち無沙汰で待たされて、懐中電灯でつけられた8個の器具のうち、2個が自宅に帰り着いてすぐ取れたとき、最初の心が揺らいだ。
 ――あの人たちの技術は大丈夫なのか。あのぐだぐだのアドミニストレーションを信じていいのか。顎がきちんと治らなかったらどうしよう。日本だったら、さっさと手術してきれいに直します!とか、しっかりかみ合わせを考えて固定します!とか、もう少ししっかり(したふりくらいは)しているのではないか……。
 ここから始まる通院編は、この不信と不安の押しては返す波の記録となる(1)。


 私は、子ども時代と30代になってからの2回、矯正治療をしている。矯正のいわゆるブラケットは何度も装着されたことがある。何かの拍子に取れてしまうことはもちろんあった。だが、つけたその日にとれたことなどない。上下の間をゴムで結ぶので、ゴムの力に引っ張られるのだから、がっつりつけろ!!そう思った。
 退院が土曜だったので、通院を指定されている月曜までは、とにかくなるべく口を動かさずに過ごすこととなった。


f6-1-1矯正ブラケット


(矯正ブラケット――左右上下で2つずつつけられ上下をゴムで固定された…はずだった) 

※写真は、矯正歯科ネットよりお借りしました。


(1)


 そして、今までなるべくNHS公式情報や、日本での既存研究などから、自分の体験がどういうことだったのかを考えて注釈をつけようとしてきましたが、どんどん、調べてもわからないものだらけになります。これは、きっとこういうことだよ!とわかる詳しい方がいたら、本当に、ぜひ教えていただきたいです<(_ _)>