1週間経ち、次の診察の日が来た。受付に予約の紙を出して待合室で待っていると、日本人通訳さんがやってきた。夕方だったので診療が押しているのかかなり待ち、ようやく前回同様に呼ばれた。
 最初に診察をする若い医師は、前回とは別の若い女性で、「ちょっと待ってね…」とパソコン上のカルテを読んでいた。大学病院のようなところなので、若い先生とえらい先生の2人体制なのは仕方ないと思っていたが、毎回一から把握しなおし、説明し直しというのは効率が悪いのではないかと思った。
 しかも、折に触れて言及することになるが、医師ごとの診断にはだいぶばらつきがあった。さらに、結局は、プロフェッサーKが後で出てきて、一から診察・診断するのだった。
 
 手に入れた事故前の歯並びの写真を見て、若い女性医師は、「助かるわ」と言ったが、プロフェッサーKは「フォゲット・イット」と一蹴した。元通りには治らないから、受け入れろ。あの今ひとつわかりにくいイスの脚の例をもう1度繰り返し、彼はそう言った。
 結局、診断は何一つかわらなかった。噛み合わせの変化に関する私の不安は受け止められることなく、一蹴された。
 「ティース・ムーブ・ゼムセルブズ!」
 骨折が治った後、噛み合わせの問題は歯が自己調整するし、それでも不具合があれば矯正治療で治る、と強弁された。順調に口は開くようになっているから、もっとそれを続けること、さらには左右に動かすなどストレッチを頑張ることと言われた。
 
 実は途中から、ミスターCが「どう?」と顔を出していた。彼も外来に出る人だったのだ。
 彼は、イスの例をテンション高く説明するプロフェッサーKを失笑気味に見守っていたが、基本的にはプロフェッサーKの診断で間違いないという態度をとっていた。私は、ミスターCのほうが人としてふつうの会話ができる人のように感じていたので、つい彼の方を見て色々と確認してしまった。
 歯がある程度は自己調整するのはそうだろうが、だから大丈夫というほど動くとも思われないし、言いくるめようとしている感じに不信感を覚えた。しかし、大病院の立場のありそう医師2人がかりでいいというのだから、もうイギリスにとどまる以上、噛み合わせの変更は受け入れるしかなさそうだった。日本に帰っても同じ治療方針かもしれないし。
 若い医師は、「プロフェッサーKは英国の顎顔面外傷の権威だから信頼して」と言ってくれた。


 ただ、プロフェッサーKが最後に言った一言にはのけぞった。
 「じゃあ、次は2週間後。」
 ――え・・・・・・。
 私は漠然と、全治6週間の間、毎週診断してもらうのだと思っていた。まさか、退院2日後、1週間後、2週間後…というタイムスパンだったとは……。
 頻繁にレントゲンを撮って、「新しい骨ができてきていますねー。順調でーす。ではまた来週ー」とやる日本のやりかたが、診療報酬制度とも連動した過剰医療だということは承知していた。たしかに、自宅療養1週間で大きな変動が起きて緊急手術といった展開にならなかった以上、次は2週間後で十分なのかもしれない。不安だったが、無料の医療の資源配分とはこういうものかと思わざるを得なかった。「公平・無料」とは、「みんな平等に必要最低限」ということだった(1)。
 その2週間後の次が、さらに問題だったのだが……。


(1)

 どの程度の頻度で診療するのが標準治療かという記述は、ざっと見たネットや本では見つかりませんでした。知っている方がいたら教えてほしいです。
 ただ、同じ時期に捻挫をしたという方は、A&Eで骨折がないか確認されたあとは、「捻挫の治し方」という紙をもらって終わり(つまり、治ったかどうかの診察はなし)だったそうです。うまく直らなくてへんだなあと思ったら自分で受診せよということでしょうか・・・。これはけっこう衝撃でした。


f7-3-1プリン
(あまり関係ないですが、スープよりましな蛋白源。プリン。)