結局、2週間待った3回目の診察でも、噛み合わせ問題はあきらめるしかないとしても、事故後3週間半たっても、日々不安なことが出てきてもすぐには解決せず、歯の治療のめどが立たないという状況が確認されただけだった。そして、このままでいいのだろうかという不安にさらに拍車をかけたのが、次回の診療日程だった。
 ミスターCが帰った後、若い男性医師が言ったのは、「では次は6か月後」ということだった。

 ―――は??
 全治6週間で、3週間半のところで、なぜ次が半年後になるのか。
 しかし、医師は順調なので6か月後だと言い張った。6か月後では帰国する時期になってしまう。帰国前にこちらでの診断をしてもらって日本の医師に引き継がないと不安だと主張したところ、「それはそうだ」と2か月後の2月の予約をとれということになった。

 まだ口もまともに開かなければ痛みもあるのに、半年後……。その事実は私を打ちのめした。
 ――公平で無料というのはこういうことなのか!??
 たしかに、自然治癒を待つだけなのだから、医者に診てもらう必然性はない。大昔から、多くの人がそうやって治すか、うまく治らなかったら事実――死も含めて――を受け入れたのだ。その状態からの改善策として、せめて最低限の診断と治療を誰にでも無料でというのがNHSの設計思想だとしたら、そのスキームの中ではその最低限のサービスしか受けられないのはやむを得ない。でも……。
 その日は何も考えられず、クリスマスイルミネーションの中を歩いて、大して見たいわけでもない007の映画を見て帰ったのだったと思う(1)。


 この話については、ここだけ読んだ方が誤解しないように後日談を書いておきたい。「6か月後」は(おそらくは縫合が下手な若い男性医師の)ミスだった。「6週間後」が標準治療だったそうだ。正直なところ「6週間後」でも十分「は?」と思うが、治るに任せている状況なのだから平均値である予想全治から2-3週間したあたりで診断というのは、医療費コストを最小限に抑える観点からは、ぎりぎり納得可能な日程設定だと思った。
 ただ、仮にミスだったとしても、その場で医師自身が「6か月後はありえない」という感覚にならないということ自体が、イギリスの医療の提供サービスの質量の標準を表しているとは言える気がしている(1)。


(1)

 どうやって「6か月後」がミスだと判明することになるのかは、順に書いていくことになりますが、多くのアンチNHSのイギリス人が「ああNHSだと、そういうことよくあるよねえ」「そういうミスで人が死ぬんだよ」という反応でした。そして、おいおい書いていく中で明らかにしますが、こういうミスがあったときに、患者が「おかしいのではないか?」「誰かに確認したい!」と思ったとしても、NHSのスキームの中でそれを実現するのはとても大変でした。


f7-4-1予約確認書


(予約確認書はこんな感じです。診察終了までに最低2時間は見ておけと明記してあります。)