この「次は6か月後」事件とともに、実は歯医者の問題が若い男性医師によってもう一段混迷した。彼は、救急に回しても意味がないと言い張ったが、代わりに、補綴科のP医師なる人に紹介をしようと言い出したのだ。そのときの彼の説明が、NHSのしくみの問題をよく表していた。
 彼が言ったのは、要約すると次のようなことだった。


 「君の歯のけがは、複雑なものではない。歯医者ならば誰でも治せる。僕は口腔外科医としてここにいるからその治療をすることはできないが、この科の医師はみんな歯医者の資格も持っており、僕でも治せる。だから、このNHS病院で紹介を待っても、自分で町のNHS歯科やプライベート歯科に行っても同じだ。紹介(リファー)は出しておく。すぐ先の予約が取れるとは限らない。予約日を見て待てないならば、キャンセルして自分で歯医者を予約すればいい。」


 医師によって言うことが違う中、適当に持ち出されたとしか思えない提案は、正直なところ全く信用できなかった。ただ、万が一すぐ予約できて同じ病院内で情報が共有されるならばそのほうがいいような気もしたし、順番待ち問題が盛んに言われるNHSで、このように院内紹介がなされた場合にどのくらい先の予約がとれるのか見てみたい気もした。そこで、ひとまず紹介は出してもらうことにした。


 ただ、欠けた歯が4本もあり、そのうちの1本はかなり深刻だという事態は早く治してしまいたかった。そこで、翌日には予約が1週間後なのか、1か月後なのか、3か月後なのかは判明しているだろうと、予約センターに電話をかけることにした。クリスマス休暇明けくらいにとれるならばそれに従い、それより待つならばプライベートを予約しようと思っていた。
 翌日の夕方、予約センターに電話し、途中で回線が切れて振出しに戻るとか全然関係ない部署につながれて行き場を失うとかいったイギリス社会の「お約束」を繰り返し、やっとプロフェッサーKの秘書という人の電話番号を教えてもらった。秘書というには英語がひどくなまっていて早く、ぶっきらぼうな人が電話に出た。
 余談だが、この人は本当に不愉快な人で、自分が事情を理解できなかったり私が念を押すために聞き返したりすると、「ドー・ユー・アンダースタンド・イングリッシュ?」と聞いてきた。私の英語は決して流暢ではなく、もう少しゆっくり話してくれとか、もう1度繰り返してくれと聞いたことも何度もあったが、相手が「オマエ英語わかってる?」と聞いてくるタイミングが、英語の問題が生じているときでないことは間違いなかった。不愉快だった。この秘書との衝突はこのあと何度も起きるが、この人の番号を入手していたことは後々役に立った。


 すったもんだの英会話の末、不愉快な秘書が調べてくれた結果、まだ若い男性医師からの紹介の処理が始まってすらいないということが判明した。しかも、今までの実績から言えば、最低でも5-6週間待ちだろうとのことだった(1)。
 ――これは、話にならない。
 「キャンセルするか?」という問いには、並行してプライベートも探すが、今の時点ではリファーを続けてほしいと言い、調べてあった日本人相手に広告を打っているプライベート病院に電話することにした。



(1)

 3-4)の注でもふれたDepartment of Health 2015 The Handobook to the NHS Constitution for England(p.31、2016年8月20日閲覧)では、「緊急でないケースで紹介がなされた場合は18週間以内に治療を受ける権利がある」となっています。はい、NHSでは4か月くらいの順番待ちは仕方ないのですね……。この件がその後どうなったかは、あとで書きます。



f7-5-1Winterwonderland

(本文と関係ないですが、クリスマスにハイドパークに出現したWinterwonderland。体調が回復してきたところで、発散しに行きました。)
※移動遊園地という文化がまだあるのがすごいと思うのですが、かなり絶叫系も移動式で大丈夫なのだろうかという疑問が残っています。ヴィクトリア朝くらいから同じことを粛々と続けている節のあるのが、イギリスというお国であります。