そんなこんなで、「次は6か月後」ショックの中、クリスマス休暇を控えてあわてて四方八方に電話をかけまくり、次の手を探す数日を送った(1)。その後は、体力の回復とともに、在英の日本人の友人・同僚と会合を持って元気づけてもらったり、体調不良とも言っていられず日本からの締切仕事をこなしたりして、年末年始が過ぎていった(2)。歯医者にも通い始めた。 しかし、どこかで本当に次は2月でいいのだろうかという不安があった。
 もはや骨も付き始めているだろうし、噛み合わせが変わったままくっついてしまうのはやむを得ない。けれど、セカンドオピニオンのようなものが聞きたかったし、治癒したかどうかのレントゲンを撮ってもらったり、顎のリハビリの仕方くらい教えてもらったりしたかった。


 「NHSではセカンドオピニオンは受けられない。」
 イギリス在住経験が長かった知人は、SNS上で愚痴を書いた私に対して、そうコメントを返してくれた。
 専門医のいるセカンダリケア医療機関には本当に必要なときだけ紹介される仕組み上、日本のように、患者が勝手にこの病院とは相性が合わないから別の病院に行ってしまえということができない。よほどの事情があって転院を希望すれば紹介状を書いてくれるのかもしれないが、おそらく緊急度が低ければ恐怖の順番待ちだろう(3)。
 そして、試しにMaxillofacialで検索してみても、NHS傘下のロンドンの大病院はいくつか出てくるのだが、なんとほぼすべてでプロフェッサーKの名前が出てきた。医師が病院所属ではないとなると、月曜日は大病院A、火曜日は大病院B…と名医が動いているということなのかとしか思えなかった。同じ医師では意味がない。しかも、どうやって転院するのかもよくわからない。プライベートも含めて、どこに行っても同じ医師しかいない問題というのも、上述の知人が言っていた。
 私は、セカンドオピニオンなるものは、欧米で発達して日本で遅れて推奨されたものだと思っていた。だが、少なくとも私が体験した範囲の英国NHSに、それは存在しなかった(4)。



(1)

 イギリスの携帯電話代金はとても安く、それに助けられました。日本までの国際電話が1分6ペンス。10円程度です。ここに書いた各種の問い合わせのほかに、保険会社の日本の窓口にも色々と問い合わせることがあったので、本当に助かりました。日本国内で携帯から電話するほうが高いというあほらしさ。


(2)

 イギリスはクリスマスのほうが、元旦よりも大きな休みなので、病院自体は、12月25日と祝日(バンクホリデー)の1月1日以外は診療をしていたようです。ただ、医師や担当事務が休暇に入る可能性は否定できません。
 余談ですが、クリスマスを一人で過ごすというのはとんでもなく悲惨なことのようで(恋人がいないという話ではなく、日本の感覚の「お正月を1人で迎えるのはさびしすぎる」というのに相当するようです)、心配したお友達何人かが声をかけてくれました。ただ、クリスマスは公共交通機関が止まるので(!)、体力も戻りきらず、食べられるものが限られている私は、お泊りしてまでパーティーにということもできず、一人で近所の教会の礼拝に行ったり、テレビの礼拝や女王のお言葉を見たりと「クリスマスウォッチ」をして過ごしました。イギリスの規範を共有していない私は、ウォッチを満喫したのですが、「けがをした上に1人でクリスマスを過ごしたかわいそうな日本人」という印象は強かったようです。



(3)

 いくつかの日本語のサイトで見たのが、紹介が進まぬときはとにかくA&Eに行ってしまえというアドバイスでした。そうすればその日に見てもらえるし、そこから同じ医師やチームが担当してくれる、と。こうして、A&Eにはそこまで緊急でない人があふれることになるのでありましょう(3-4)参照)。


f7-7-1A&E①

(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン病院のA&E)

f7-7-2A&E②
(セント・メアリーズ病院のA&E)
※病院を通るたびにA&Eがどこにあるかチェックするようになったのでした(笑)

(4)

 こういった話は、私が目を通した範囲の文献には載っていませんでした。どうなっているのか、詳しい方教えてください。本当に。


[2016年8月28日追記]
1) 速攻で、NHSのページに「セカンドオピニオンの受け方」が書いてあることを教えていただきました(
How do I get a second opinion?  (2016年8月28日閲覧))。
 法的権利ではないが考慮されるべきということで、見てくれている専門医やGPに相談せよということでした。ただ、別病院の紹介に時間がかかることを考慮せよとも書いてあります。紹介はたぶん
7-7)にあるように「18週以内」というペースではないかと推測…。骨はついてします。癌などの緊急の場合は「2週間」だそうですが。
 私もこのあともう少しあがくのですが、専門医やGPに回されて紹介されていく仕組みの難しさは、次の章でもう少し書くことになると思います。

2) これまたご紹介いただきました。そもそも起源をたどれば「セカンドオピニオン」は、患者のためではなかったそうです!米国で手術しまくりの状況に、保険会社が妥当性を判断するために2人の医師の判断を要求したことから始まるそうです(日本成人白血病治療共同研究グループ「セカンドオピニオンについて」(2016年8月28日閲覧))。
 つまり、そもそもの医療資源の分配という面から考えれば、患者がセカンドオピニオンを受けすぎるのはよくないようです。とはいえ、では、医療がエビデンスに基づき標準化していけば、セカンドオピニオンは不要になるのかというと、患者の視点から納得できるようなインフォームドコンセントとセットならばということに尽きるように思いました。
 これも、きっとこのあとに書いていくことに関わっていきます。