半ばやけぎみに趣味の劇場通いをしたり、日本からの締切仕事をしたりしているうちに、クリスマスが過ぎ、年が明けた。
 事故から1月以上経過して、もはや今から治療し直すこともできないとはわかってはいた。しかし、まだ痛みがあって、口も2センチくらいしか開かないのに、回復を確認するレントゲンも撮らず、次の診察は数ヵ月後というのでは、気持ちが明るくなりようがなかった。心身のバランスはぎりぎり。とにかく、宙ぶらりん状態には決着をつけたかった。
 ようやく体力が戻ってきた感じがあったので、日本の新年の診療が始まるのを見計らって、セカンドオピニオンをもらうために1~2週間だけ帰国するのもありかなあと考え始めたころ、ふと思いついた。
 ――保険会社に相談すればいいんだ。
 それまで、なぜそれを思いつかなかったのかわからない。受診相談こそ、保険会社窓口に電話すべきところではないか。

 日本の窓口に電話をかけると、親身になってくれた。イギリスに慣れると、日本の丁寧さはやりすぎだと思うところも多いが、やはりありがたかった。翌日、日本の保険会社と契約しているイギリス側の日系代理店から電話があった(1)。
 プライベートの口腔外科が見つからないので探してみるとのことだった、併せて貴重なアドバイスをいただいた。まず、とにかく、調子が悪いと食い下がってNHS病院に早めの予約を取り直してもらえ――。なるほど。漫然と順番待ちしていたら負けるのだ。
 そして、予約がとれたら、プライベート医院の紹介と転院を、NHSの医師に打診してみよ、とのことだった。同じ医師がNHSとプライベートの両方を担当している場合、医師自らが「プライベートならば、同じ自分がこれだけしっかり見て上げられるよ」と営業することがあるという(1)。そういう道を聞いてみよということだ。

 ぼんやりしていても、お金がなくても、最低限の医療は請けられる。だが、よりよい治療を求める場合、NHS内を渡っていくにも、お金をつかってプライベートに移るにも、ガッツがいる。正直なところ、ここで心が折れなかったのは、やはり不安だったからと、こうなったらこの国の医療の仕組みをとことん見てやる、と思うことでからだった。


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(海外生活の命綱・・・。)



(1)

様々なウェブページに書いてあります(たとえば、ここ→林大地「待たずに検査したいなら、プライベート医療へどうぞ」(2017年2月5日閲覧)。ここでアドバイスされたのは、そういう可能性を聞け、ということだろうと思います。