さて、プロフェッサーKを質問攻めにした結果、「次は半年後」事件以来、年末年始をはさんで私を不安にさせていた事態は解決した。少なくとも、イギリスの医療制度では他の手はとりえないことを理解した。
 プロフェッサーは、「今回のようなイレギュラーな予約はもう辞めてくれ」と、半年後というミスをすっかりなかったことにして言った。「次は予定通り6週間後」と。こちらはそうもいかない。
 「矯正とか審美とか言ってくれているところ申し訳ないけれど、3月に帰国するんですが、どうしたらいいですか?」
 そう聞くしかなかった。
 「え、そうなの?テンポラリー?パーマネント?」(1)
 プロフェッサーKは、明らかに今初めて聞いたという反応を示した。それまでの受診で、私は何度かそれを若い医師たちに伝えたと思うのだが・・・。

 プロフェッサーKは、東京在住ならば、東京のきちんと連携してやってくれる口腔外科・矯正医を調べて紹介状とデータを全部渡すと豪語した。私は、矯正歯科はかかっていたところがあるし、そこは歯科大の付属病院だから口腔外科もあると思うと説明したが、「“そのへんの町医者”には任せられない」と強弁された。相変わらず人の話を聞いていない。
 イギリスの治療が劣ると思われたらかなわないから、俺様がきちんと日本人の医者に引き継いでやる!という調子で、横にいた若手医師に、今の案件を自分と秘書にメールしろと指示し、プロフェッサーは満足げに診察室を出て行った。

 診療記録がもらえるならばやはり安心ではあるが、このよくわからないテンションでなされたNHSのスキーム外への「紹介」という約束が履行されるのかは、今までの経緯から非常に怪しいと思っていた。予感は当たる・・・。
 通訳さんは、「とても誠実な先生だったじゃないですか」と言ってくださったが、どうなることやら。6週間後、そして、おそらく帰国前最後となる診察の予約をとって病院をあとにした。

(1)

この質問は、医療関係にかかわらず何度かされました。「一時帰国か永久帰国か」という二択で聞かれるのが、ものすごく新鮮でした。移民が帰らない国にとって、「永久に国に帰る」ということは第一選択肢ではないようなのです。日本では、何年住んでいても、外国人は「いつご帰国ですか?」と聞かれると言います。日本人は、「外国人は帰る」、人は生まれた国で永久に過ごすほうが“普通”だ」と思っているけれど、それは自明ではないのです。


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(移民が「帰る」ことが自明ではない国。このあと、インド系のカーン候補がロンドン市長に選ばれます。)