NHSでの診療を終えた翌日、保険会社の代理店から連絡が来た。やはり顎顔面外傷を見られるプライベート医療機関を探しあぐねているということだった。NHSの医師からの紹介を断られたことを告げると、代理店の方も困っていた。

 ただ、打開策として、専門医ではないが、日系病院の一般外科の先生にひとまず診てもらうという案が示された。私が駆け込んだのとは違う、ロンドン内の病院だった。すでに話はついていて、キャッシュレスで対応できるので、予約せよということだった。

 

 専門医ではないという言葉にはっとした。私は、プライベートとNHSという違いばかりが頭にあったが、日本人が保険で簡単にかかれる日系病院は、GP(一般医、かかりつけ医)か専門医かでいえば、GPなのだ(1)。一般的な内科と外科の医師が、日本語で日本人を診察する。そこで手に負えない案件になったら、専門医に回していく――。「日系医療機関」は、英国の仕組みの中に、そういう形で位置づいていたのだ。

 事故の日、私は、日系医療機関に駆け込もうとし、そしてNHSにまわされることになったと思っていたが、GPから専門医に回される過程で、たまたまNHSの専門医につながったとも言えるのだと認識を改めた。

 

(1)

後日、保険会社の書類に、Private GPと書いてありました。「プライベートかかりつけ医」とでもいいましょうか。


 

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(日系病院のあるビルの入り口。ロンドンのオフィスビルってこんな感じです。)