すぐに呼ばれて、イギリスにありがちなちまちました階段を上って指定された部屋へ。
 うわさには聞いていたが、「診察室」とはほど遠い、ただの書斎だった。大きな机の向こうにいる若いインド系に見える先生は、スーツ。ここは診断の場ではなく、リファーによってつながる一連のシステムの「ゲート」でしかないのだと思わされた(1)。

 一応と思って持ってきた1月半前にもらった退院書類を差し出すと、「なぜ今頃?」と聞かれた。
 ――直後は体調悪くて来る気力が・・・。
 と答えたが、患者が持っていく仕組み自体が、色々な人がいる中で機能しないという気がしていた。

 紹介状を書いてほしいという旨を話すと、「なんで今頃?なんで専門医は紹介しないの??紹介状は書くけど…」とちゃっちゃとパソコンで書いてくれた。
 見ると、Dear Colleagueとのみあって、具体的な病院名は書いていない。
 ――どこのフィジオがいいかわからないのだけど、紹介してくれませんか?
 「この近所で自分が知っているのはここだけだから、ここに電話してみて。顎のリハビリが得意じゃないって言われたら、そこに他の病院を紹介してもらって。」
 正直というか、合理的と言うか。
 紹介状の内容も、「この○日に顎を骨折した○歳の女性を診察してくださってありがとうございます。彼女は理学療法を助言されたので、診察していただけたら幸甚です」といったものだった。英語のニュアンスはわかりかねるが、「御机下」とか「御侍史」とかいう呪文が踊る日本の紹介状と比べると、あからさまにカジュアルだった。

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 医師が患者に近づくこともなく、デスクワークだけで済まされていく様子に、ふと、診察はしてくれないのかと聞いてみた。すると「整形外科は専門じゃないんだ」といいながら、儀礼的に顎の開閉を確認してくれた。適当、としかいいようがなかった。
 5分診療。受付に降りたものの、会計もなく診察券もないので、そのまま終了だった。
 ――この仕組みで、きちんと大病が発見され、正しい専門医にリファーがされるのか?
 近所に1軒しかないGPが藪だったら・・・?ポストコードロッタリー(郵便番号宝くじ)という言葉が再び脳裏をよぎった。

(1)
2-3)参照。

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(診察室入り口。中は、本当に書斎でした。)