さて、そういうわけで、結局、もう治療方針変更の機は逸しているし、ロイヤル・ロンドン・ホスピタルのプロフェッサーKに診断をあと1回受けて、3月に日本に帰ってまた考えるというのでよいだろうという結論になった。
ただ、日本人医師は、もう1つ新しい可能性を教えてくれた。
 「フィジオは受けてもよいのではないか。」
 ――ふぃ、ふぃ?
 「フィジオセラピー」、つまり、「理学療法」だった。口がきちんとあけられるように、マッサージや開口訓練といったリハビリを受けたほうがいいのではないかという話だった。
 たしかに、けがをしたらリハビリするだろうに、今までそういった話は一切なかった。しかし、予後を考えたとき、受けられるリハビリは受けておいたほうがいいに違いない。


 この国で理学療法を受けるにはどうしたらよいのかとたずねると、主治医かGPの紹介状をとるのがよいということだった。
 ――むぅ。またリファーか・・・。
 曰く、イギリスは狭い世界で、医療機関がすべてつながっているし、NHSとプライベートも医師が知り合いであることが多い。だから、自分が横から紹介状を書くのはマナー違反であり、正式ルートで紹介したもらったほうがあとがよいだろう、ということだった。


 うへえ。となっている私に対し、医師は付け加えた。むしろ、日本は、派閥などがあって閉鎖的になりがちだからこそ、患者が勝手に転院できるとも言える、イギリスは、オープンな仕組みだということでもある、と。
 確かに、そうだと思った。そして、こうなったらリファーで新たな専門家につながるという体験をしてみるか、と思うことにした。
 日本語で、文化と制度の違いを知りぬいた方からの説明を聞けて、混乱や不安はだいぶ収まった。何度も何度もお礼をいい、日系医療機関を後にした。
 
 次なる緊急ミッションは、理学療法の紹介状だ。まず、プロフェッサーKに、顎の情況を含めた紹介状を書いてもらうのが妥当だろうと思ったが、それを聞くのが憂鬱だった。
 ロイヤル・ロンドン・ホスピタルとの交渉が面倒になっていたので、保険会社に日系病院での診察結果を話し、協力を仰いだ。その結果、秘書にメールと電話で確認してくれることとなった。数日に返ってきた返答は、「紹介はしない」だった。どうも、リハビリが必要な案件とは考えていないようだった。
 ということは、もう2度と行くことがないと思っていた登録GP(1)に行って、紹介状を書いてもらうという新規ミッションが発生するということだった。


(1)

2-4)参照


f9-5
(こちらは写真を撮れた内科博物館から。いわゆる「ペスト医師」の時代、病気がうつらないように杖からお香をかいで治療したというお話。こちらのほうが、えらかったのですね。)